スラッシュ・リーディングのための英文法用語

英語を読む際に脳内で日本語に変換しようとすると、語順が大きく違うため、日本語として整えるのに時間や労力がかかります。しかしいわゆるスラッシュ・リーディングの手法では、スラッシュで英文を区切りつつ、英語の語順のままで理解します。こうすると脳内で英語を日本語に変換して整える必要がないため、素早く英文を読めるようになります。

スラッシュ・リーディングでは区切りを入れる場所に厳密な決まりはありません。ただ、「句」や「節」を目安に区切ると意味が把握しやすくなるはずです。このページでは句や節に加え、スラッシュ・リーディングで必要と思われる英文法用語を簡単に解説します。

文の主要素

一般的に1つの文はピリオド(.)、疑問符(?)、感嘆符(!)で終わります。文の主要素は4つあり、主語、動詞、目的語、補語です。

  • 主語(S)
    • 文の主題を表すのが主部で、中心は「主語」です。英語でsubjectなので「S」とも書かれます。
  • 動詞(V)
    • 文の主題について述べるのが述部で、中心は「動詞」(述語動詞とも)です。英語でverbなので「V」とも書かれます。
    • ※ この「文の要素としての動詞」は、後で説明する「品詞としての動詞」とは別です。文の要素としては、複数の語でVを構成することもあります。
  • 目的語(O)
    • 動詞の動作を受けるのが「目的語」です。英語でobjectなので「O」と書かれます。
    • 目的語には、間接目的語(主に人)と直接目的語(主に物)があります。
  • 補語(C)
    • 主語や目的語を補って説明するのが「補語」です。英語でcomplementなので「C」です。
    • 細かく分けると、主語を説明する主格補語と目的語を説明する目的格補語があります。

[補足]文のパターン(文型)

学校の英文法で習ういわゆる5文型はこういった主要素が組み合わされるパターンです。「これは第何文型か?」といったクイズは英文法が嫌いになる要因かもしれませんが、文型とはパターンです。プログラミングでパターンを知っておくと有利なように、英語でもパターンを把握しておくと英文理解の助けになります。

例を挙げます。

  • The app crashed.
    • The app → S、crashed → V
    • 訳:アプリがクラッシュした。
    • 「SV」は第1文型
  • The plugin will be available.
    • plugin → S、will be → V、available → C
    • 訳:そのプラグインが入手可能になる。
    • ※ 補語availableは主語pluginを説明(主格補語)
    • 「SVC」は第2文型
  • You should install the update.
    • You → S、should install → V、update → O
    • 訳:アップデートをインストールする必要があります。
    • 「SVO」は第3文型
  • Don’t show me the dialog again.
    • show → V、me → O1、dialog → O2
    • 訳:このダイアログを再度表示しない。
    • ※ 命令文ではSとなるYouが省略される。againは修飾語で文の主要素には入らない
    • ※ O1は間接目的語(人であるme)、O2は直接目的語(物であるdialog)
    • 「SVOO」は第4文型
  • You can leave the field empty.
    • You → S、can leave → V、field → O、empty → C
    • 訳:このフィールドは空のままにしておけます。
    • ※ 補語emptyは目的語fieldを説明(目的格補語)
    • 「SVOC」は第5文型

品詞

ある英単語を機能などによって分類したものが「品詞」です。ここでは7つを説明します。名詞、代名詞、動詞、形容詞、副詞、前置詞、接続詞です。

  • 名詞
    • 概念や物などの名前を表す語
    • 文の主要素としては主語(S)、目的語(O)、補語(C)になる
  • 代名詞
    • 名詞の代わりとなる語
    • 文の主要素としては主語(S)、目的語(O)、補語(C)になる
  • 動詞
    • 状態や動作を表す語
    • 「自動詞」と「他動詞」がある
      • 他動詞は目的語(O)を取るが、自動詞は取らない
      • つまり自動詞はSV(第1文型)かSVC(第2文型)、他動詞はSVO(第3文型)、SVOO(第4文型)、またはSVOC(第5文型)になる
  • 形容詞
    • 名詞や代名詞を修飾する語
    • 文の主要素としては補語(C)になる
  • 副詞
    • 動詞、形容詞、副詞、文全体(つまり名詞以外)を修飾する語
  • 前置詞
    • 名詞や代名詞の前に置いて形容詞句や副詞句を作る語
  • 接続詞
    • 語同士、句同士、節同士をつなぐ語

例を挙げて品詞と対応させてみます。

I downloaded new apps, and I installed them successfully.

  • I:代名詞(文の要素としてはS)
  • downloaded:動詞(他動詞。文の要素としてはV)
  • new:形容詞(次の名詞appsを修飾)
  • apps:名詞(文の要素としてはO)
  • and:接続詞(2つの節を同じレベルでつなぐ。細かく言うと「等位接続詞」)
  • I:代名詞(文の要素としてはS)
  • installed:動詞(他動詞。文の要素としてはV)
  • them:代名詞(文の要素としてはO)
  • successfully:副詞(installedを修飾)

句と節

どちらも1つの語ではなく、複数の語から成るかたまりのことです。複数の語で、ある品詞に相当する役割を果たします。

  • 主に名詞句、形容詞句、副詞句の3つがある
    • 例えば形容詞句は、形容詞と同じ役割(名詞を修飾したりCになったりする)を果たす句
  • 節と違い、内部に「主語(S)と動詞(V)」の関係を持たない

次の例文で句を拾ってみます。

Making apps for smartphones is popular in Japan.

  • Making apps → 名詞句
  • for smartphones → 名詞appsを修飾する形容詞句
  • in Japan → isを修飾する副詞句

なお文の主要素としては、Making appsがS、isがV、popularがCです(SVC)。

  • 名詞節、形容詞節、副詞節の3つがある
    • 例えば名詞節は、名詞と同じ役割(S、O、Cになる)を果たす節
  • 句と違い、内部に「主語(S)と動詞(V)」の関係を持つ
  • 「主節」と「従属節」がある。従属節は主節に従う関係

次の例文で節を拾ってみます。

What I am making is the app that you wanted, although it is not finished.

  • What I am making → 名詞節(I→S、am making→V)かつS
  • that you wanted → appを修飾する形容詞節(you→S、wanted→V)
    • ここまでが主節
  • although it is not finished → 副詞節(it→S、is not finished→V)
    • 従属節

なお文の主要素としては、「What I am making」がS、isがV、「the app that you wanted」がCです(SVC)。

句や節の目印

冒頭で述べたように、スラッシュ・リーディングする際は、この句や節を目安に区切るとよいでしょう。単にスラッシュで区切るのではなく、文法的な単位を意識しながら区切ると要素同士の関係が分かりやすくなるため、意味を把握しやすくなります。どの程度の長さで切るのかは慣れもあります。意味が把握できないうちは短め(句)、慣れてきたら長め(節)と、個々人の状況に合わせて変えて問題ありません。

ただ、句や節がどこで始まるのか、最初はすぐに判別できないでしょう。始まりの目印にしやすい品詞がいくつかあるので、具体的な単語と併せて挙げてみます。

  • 前置詞
    • at、for、from、in、toなど
  • 接続詞
    • although、and、because、but、if、or、since、though、when、where、whileなど
  • 関係代名詞
    • what、who、whose、which、thatなど
    • ※ 代名詞+接続詞の働き
  • 関係副詞
    • when、where、why、howなど
    • ※ 副詞+接続詞の働き

[筆者紹介]

西野 竜太郎

Ryutaro Nishino

翻訳者/情報技術者/IT英語専門家

訳書に『血と汗とピクセル』、『リセットを押せ』、著書に『アプリケーションをつくる英語』(第4回ブクログ大賞)、『ITエンジニアのための英語ライティング』、『ITエンジニアのための英語リーディング』、『ソフトウェア・グローバリゼーション入門』など。
産業技術大学院大学修了(情報システム学修士)、東京工業大学大学院博士課程単位取得(専門は言語学)。TOEIC 985点。
東京通信大学外部講師。

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