「プログラミング英語検定ジュニア」読解問題テキスト
ソフトウェア英語メッセージの読み方:特徴と頻出表現
西野竜太郎 著
グローバリゼーションデザイン研究所
はじめに
プログラミングをしていると英語を読まなければならないことがあります。例えば次のような場所にある英語です。
- ソースコード
- コメント
- 名前(関数、変数など)
- APIリファレンス
- マニュアル
- ソフトウェア
- UI(ボタン、メニューなど)
- メッセージ
最近は機械翻訳システムの性能も向上しており、便利に使えます。しかし関数名や変数名は英語のまま理解する必要があります。また開発環境などのソフトウェアに表示されるメッセージも簡単に機械翻訳できません。突然英語でエラー・メッセージが表示され、何をしてよいか分からずに困った経験をした方もいるでしょう。
そこで、本書ではソフトウェアのメッセージに表示される英語の読み方に注目して解説します。まず言葉の特徴である「省略」と「対話表現」を説明します。続いて頻出する表現パターンを「エラー」、「確認」、「指示」の3つに分類して取り上げます。
本書を読むことで英語メッセージに対する苦手意識を少しでもなくし、ぜひ楽しんでプログラミングに取り組んでください。
<注>
- 本資料は「プログラミング英語検定ジュニア」の読解問題の出題範囲となります。
- 資料内で登場するBは「ベーシック300」、Aは「アドバンスト300」を指します。いずれも「プログラミング必須英単語600+」(progeigo.orgから無償で入手可能)のカテゴリーです。
1. 英語メッセージの特徴
1-1. 省略
通常、英語の完全な文は主部と述部から成り、主部の中心が主語(名詞)、述部の中心が動詞です。ところが、ソフトウェアのメッセージでは「省略」が頻繁に発生します。省略とは、完全な文としては必要なものの、省いても問題ない場合に要素が省かれる現象を指します。省いても、読者自身が状況から想像して頭の中で補えるからです。例えば次の文です。
Failed to save the file.
ファイルを保存するのに失敗しました。
文はいきなり「failed」という動詞から始まっており、主語が見当たりません。ここでは「The software」のような主語が省略されているのです。補って完全な文にすると「The software failed to save the file.」となります。なぜ省略されるかと言うと、ソフトウェアが失敗をしたことが状況から見て明らかであるためです。次のような疑問文も省略の例です。
Save this file?
このファイルを保存しますか?
文頭で「Do you」や「Do you want to」のような言葉が省略されています。ソフトウェアからユーザー(あなた)への質問という状況であるため、youが省かれていると読者は想像できます。
研究によると、省略されるのは「主語」が多くなっています。ただし動詞や目的語などが省略されることもあります。そのため文が不完全だったら省略が発生していないかを疑い、省略されているようだったら頭の中で補って理解してみてください。
1-2. 対話表現
ソフトウェアの処理は対話的に進んでいきます。ユーザーが出した命令(コマンド)に対し、ソフトウェアが「確認」を取ったり、処理が失敗すれば「エラー」を知らせたり、エラーへの対処を「指示」したりします。
例を挙げると、次のような流れになります(「<>」の部分がソフトウェアからメッセージ)。
- A. ユーザー命令 → <確認> → ユーザー命令 → 処理成功
- B. ユーザー命令 → <エラー> → <指示> → ユーザー命令 → 処理成功
Aの場合、例えばユーザーが「削除」ボタンを押すとソフトウェアから「本当に削除しますか?」と確認メッセージが表示されます。ユーザーが「OK」で確定すると、処理は成功します。
一方でBの場合、例えばユーザーが「名前を付けてファイルを保存」メニューを選びます。しかしソフトウェアから「ファイル名が無効です」とエラー・メッセージが表示され、続けて「有効な名前を指定してください」と指示メッセージが出されます。ユーザーが有効な名前を指定して再度保存を命令すると、処理は成功します。
このように、ユーザーとソフトウェアは対話を繰り返しながら処理を進めます。ソフトウェアからユーザーに表示されるメッセージのうち、中心となるのは「エラー」、「確認」、「指示」の3種類です。そこで次に、この3種類の英語メッセージの頻出表現を紹介します。
2. メッセージの頻出表現
2-1. エラー・メッセージ
メッセージの中で最も重要だと思われるのがエラー・メッセージです。どこでどのような問題が発生したのかを把握できないと次に進めないことがあります。エラー・メッセージは多様であるため、意味ごとに紹介します。
2-1-1. エラー発生
error occurred
エラーの発生を直接的に伝える表現です。「error occurred」(エラーが発生しました)という言葉がよく用いられます。
<例文>
An unknown error occurred.
不明なエラーが発生しました。
語彙解説
- unknown[形容詞]不明の A
- occur[動詞]発生する B
<例文>
Error occurred while reading the file.
ファイルを読み込んでいる間にエラーが発生しました。
2-1-2. 失敗
failed to 〜
処理が失敗したことを伝える表現です。「failed to 〜」(〜に失敗しました)という言葉が用いられます。failは「失敗する」という動詞でベーシック300の英単語です。
<例文>
Failed to create file ‘abc.txt’
ファイル「abc.txt」を作成するのに失敗しました
※ 主語が省略
<例文>
The server failed to start.
サーバーが開始に失敗しました。
2-1-3. 不可能
処理ができない、あるいはできなかったことを伝える表現です。
cannot(can’t)
まず「cannot」や「can’t」を使った例です。
<例文>
Password cannot be empty.
パスワードは空にできません。
語彙解説
- empty[形容詞]空の B
<例文>
Can’t delete folder: ‘myfolder’
フォルダーを削除できません:’myfolder’
※ 主語が省略
語彙解説
- delete[動詞]削除する B
could not(couldn’t)
続いて過去形である「could not」や「couldn’t」の例です。
<例文>
Could not connect to the database.
データベースに接続できませんでした。
※ 主語が省略
語彙解説
- connect[動詞]接続する B
unable to 〜
次に「unable to 〜」を使った表現です。unableは「不可能な」という形容詞でベーシック300の英単語です。「unable to 〜」で「〜できない」の意味です。
<例文>
Unable to save file ‘abc.txt’
ファイル「abc.txt」を保存できません。
※ 主語とbe動詞が省略(省略なしだと「The software is (was) unable to save file…」)
語彙解説
- save[動詞]保存する B
not be able to 〜
続いて「not be able to 〜」を使った表現です。
<例文>
You may not be able to open the file.
ファイルを開けない可能性があります。
not possible to 〜
最後に「not possible to 〜」という表現です。通常は「it is not possible…」という構文で登場します。
<例文>
It is not possible to start the server.
サーバーを開始できません。
2-1-4. 必要
何かが必要、あるいは何かをする必要があることを伝える表現です。
must、should
まず「must」と「should」という助動詞を使った表現です。一般的に、必要性の度合いはmustの方がshouldよりも強いとされます。
<例文>
A file must be selected.
1つのファイルを選択する必要があります。
語彙解説
- select[動詞]選択する B
<例文>
You must enter a name.
名前を入力しなければなりません。
語彙解説
- enter[動詞]入力する B
<例文>
Should be an integer between 0 and 9.
0〜9の整数である必要があります。
※ 主語が省略
語彙解説
- integer[名詞]整数 B
need to 〜
次に「need to 〜」を使った表現です。
<例文>
Device needs to be restarted.
機器を再起動する必要があります。
語彙解説
- device[名詞]機器、デバイス B
- restart[動詞]再起動する B
required
最後に「required」を使った表現です。requiredはrequireの過去分詞形であり、requireは「必要とする」という動詞でベーシック300の英単語です。
<例文>
Version 5.0 or later is required.
バージョン5.0以降が必要です。
2-1-5. 禁止
何かをしてはいけないことを伝える表現です。
must not、should not
助動詞mustとshouldの否定である「must not」と「should not」がよく用いられます。一般的に「must not」の方が禁止の度合いが強いとされます。
<例文>
Name must not be empty.
名前は空にしてはいけません。
語彙解説
- empty[形容詞]空の B
<例文>
This method should not be called.
このメソッドを呼んではいけません。
2-1-6. 否定
「no」、「not」、「never」という一般的な否定表現を使ってエラーを知らせます。
no <名詞>
「no <名詞>」で「どのような<名詞>もない」という意味です。
<例文>
No files found
ファイルが見つかりません。
※ be動詞が省略(省略なしだと「No files are (were) found.」)
not
<例文>
Not a valid file name: ‘hello.js’
有効なファイル名ではありません: ‘hello.js’
語彙解説
- valid[形容詞]有効な A
<例文>
URL is not accessible.
URLがアクセス可能ではありません。
語彙解説
- accessible[形容詞]アクセス可能な、利用可能な A
<例文>
The specified folder does not exist.
指定のフォルダーは存在しません。
語彙解説
- specify[動詞]指定する B
- exist[動詞]存在する B
never
<例文>
Variable ‘myvar’ is never used.
変数「myvar」は一度も使われていません。
語彙解説
- variable[名詞]変数 B
2-1-7. 否定的意味の形容詞
notなどが使われていればすぐに否定の意味だと分かりますが、必ずしもそのようなケースばかりではありません。否定的な意味を持つ形容詞によってエラーを知らせることがあります。
missing
<例文>
Default value is missing.
デフォルト値が見つかりません。
語彙解説
- missing[形容詞]見つからない、欠落している B
invalid
<例文>
Invalid file name.
無効なファイル名です。
語彙解説
- invalid[形容詞]無効な A
disabled
<例文>
This plugin has been disabled.
このプラグインは無効になっています。
語彙解説
- disable[動詞]無効にする A
例文で紹介した以外に、次のような単語も頻繁に用いられます。
- empty[形容詞]空の B
- redundant[形容詞]冗長な A
- unnecessary[形容詞]不要な A
- deprecated[形容詞]非推奨の A
2-1-8. その他
上記以外にも、さまざまな言葉でエラーが表現されます。
too
まず「too」を使った表現です。tooは「〜すぎる」という副詞です。過剰な状態であるためエラーになったと伝える際に用いられます。
<例文>
The file is too large.
ファイルが大きすぎます。
<例文>
Project name ‘a’ is too short.
プロジェクト名「a」は短すぎます。
already
次に「already」です。alreadyは「すでに」という副詞です。すでに何らかの状態になっているためにエラーになった場合に用いられます。
<例文>
File ‘abc.txt’ already exists.
ファイル「abc.txt」はすでに存在します。
語彙解説
- exist[動詞]存在する B
<例文>
Label “myitem” is already in use.
ラベル「myitem」はすでに使用中です。
語彙解説
- be in useで「使われている」
no longer
続いて「no longer」です。「もはや〜ではない」という意味です。
<例文>
The file is no longer used.
ファイルはもう使われていません。
only
最後に「only」です。onlyは「〜だけ」という副詞です。
<例文>
Only one user at a time can use the software.
一度に1人のユーザーしかこのソフトウェアを使えません。
語彙解説
- at a timeで「一度に」
2-2. 確認メッセージ
確認メッセージとは、ソフトウェアからユーザーに対し、処理続行などを問い合わせるメッセージです。ユーザーは続行やキャンセルといった回答をする必要があります。確認メッセージには基本的に疑問文が用いられます。
Are you sure you want to 〜?
まず「Are you sure you want to 〜?」です。sureは「確信している」という形容詞です。そのため意味としては「〜したいと確信していますか?」、「確かに〜したいですか?」です。ただし日本語訳には単に「〜しますか?」がよく用いられています。
<例文>
Are you sure you want to delete this file?
このファイルを削除しますか?
Do you want to 〜?
次に「Do you want to 〜?」です。「〜したいですか?」や「〜しますか?」という基本的な疑問文の形です。wantの代わりにwishが使われることもあります。
<例文>
Do you want to create it now?
いま作成しますか?
<例文>
Do you want to continue anyway?
とにかく続行しますか?
語彙解説
- anyway[副詞]とにかく
<例文>
Do you wish to remove all?
すべて削除しますか?
Would you like to 〜?
続いて「Would you like to 〜?」です。意味としては「Do you want to 〜?」と同じく「〜したいですか?」や「〜しますか?」ですが、一般的に丁寧なニュアンスになります。
<例文>
Would you like to open the file ‘abc.txt’?
ファイル「abc.txt」を開きますか?
<動詞>?
最後に、省略が発生している「<動詞>?」の形です。文頭で「Do you (want to) 〜」といった言葉が省かれています。
<例文>
Continue?
続行しますか?
<例文>
Add new user?
新規ユーザーを追加しますか?
※ 冠詞(a)も省略されている
<例文>
Save changes to ‘abc.txt’?
「abc.txt」への変更を保存しますか?
語彙解説
- change[名詞]変更点(例文は複数形である点に注意)
2-3. 指示メッセージ
指示メッセージとは、ソフトウェアからユーザーに対し、何らかの操作をするよう依頼するメッセージです。何らかのエラーが発生し、その対応策として指示されることもあります。そのためエラー・メッセージのすぐ後にもよく見られます。指示メッセージには、基本的に命令文が用いられます。
<動詞> 〜
まず「<動詞> 〜」という形の命令文です。丁寧になるよう「please」が付けられることもありますが、指示メッセージは簡潔にpleaseなしの命令文であるケースが多くなっています。
<例文>
Specify the project name.
プロジェクト名を指定してください。
語彙解説
- specify[動詞]指定する B
<例文>
Try again later.
後でまた試してください。
<例文>
Please enter a valid name.
有効な名前を入力してください。
語彙解説
- enter[動詞]入力する B
- valid[形容詞]有効な A
Make sure 〜
続いて「Make sure 〜」です。「〜を確認してください」や「〜を確実にしてください」の意味です。前述のように文頭にpleaseがない形が一般的です。
<例文>
Make sure you have write access to this file.
このファイルへの書き込みアクセス権があることを確認してください。
語彙解説
- write access[名詞]書き込みアクセス権
Ensure 〜
この「Make sure 〜」と似た表現に「Ensure 〜」があります。ensureは「確実にする、確かめる」という動詞でアドバンスト300です。つまり「〜を確実にしてください」という意味になります。
<例文>
Ensure that the software is installed.
ソフトウェアがインストールされていることを確実にしてください。
It is recommended 〜
最後に「It is recommended 〜」です。recommendは「推奨する」という動詞でベーシック300です。つまり「〜を勧めます」という表現になります。推奨なので義務や禁止ほどの強いニュアンスはありません。またstrongly(強く)やhighly(非常に)のような副詞で推奨の度合いが強められることもあります。
<例文>
It is recommended that you delete these files.
これらのファイルを削除することをお勧めします。
<例文>
It is strongly recommended that you close all other applications before proceeding.
続行する前に他のすべてのアプリケーションを閉じることを強く推奨します。
語彙解説
- proceed[動詞]進む、続行する
参考文献
- 西野竜太郎. アプリケーションをつくる英語. インプレスジャパン, 2012.
- 西野竜太郎. 現場で困らない! ITエンジニアのための英語リーディング. 翔泳社, 2017
- 西野竜太郎. プログラミング英語教本. グローバリゼーションデザイン研究所, 2020.
- 西野竜太郎, 野原佳代子. ソフトウェアUI英語のレジスター分析:目標テクスト生成能力の向上に向けて. 翻訳研究への招待. 2014, no. 12, p. 39–60.
- 綿貫陽, 宮川幸久, 須貝猛敏, 高松尚弘. ロイヤル英文法. 改訂新版, 2016.
奥付
著者
西野 竜太郎(IT分野の英語翻訳者)
訳書に「血と汗とピクセル」、著書に「アプリケーションをつくる英語」(第4回ブクログ大賞受賞)、「ITエンジニアのための英語リーディング」、「ソフトウェアグローバリゼーション入門」など。産業技術大学院大学修了(情報システム学修士)、東京工業大学大学院博士課程単位取得。
ライセンス
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発行
2021年9月20日 第1版
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